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借地借家法
借地借家法は土地や建物の賃貸借契約における借主(借地人、借家人、店子)を保護する目的で制定された民法の特別法である。
これらの賃貸借契約についての規定は民法典にも存在する。
しかし民法典の規定は自由主義思想を背景に、当事者の個性を重視せず、抽象的にしか把握しない。
そのため、契約当事者には形式的な平等しか保障されていないといえる。
ところが現実の賃貸借契約においては多くの場合、貸主(大家)と借主(店子、借家人)との力関係には差がある。
そのため、両当事者の実質的な平等を保障し、一般に弱い立場におかれがちである借主の保護を図ったのが借地借家法である。
もっとも、こうした趣旨は借地法、借家法、および建物保護に関する法律から引継いだものであり、
本法によって初めて取り入れられたものではない。
本法はそれら借地人や借家人を保護する目的で制定された3法を統合したものである。
なお、農地の賃貸借契約については農地法により借地人の保護が図られている。
旧法との関係
借地借家法は、不動産の賃貸借契約における賃借人を保護する目的で制定された3つの法律
(借地法、借家法、および建物保護に関する法律)を統合したものである。
しかし、本法の施行後もそれらの法律が意味を失ったわけではない。
すなわち、原則としては借地借家法を適用する一方、
借地借家法が施行された1992年(平成4年)8月1日以前に設定された借地権および借家権については依然として借地法、
借家法および建物保護法が適用される。よって1992年(平成4年)8月1日以前に締結された不動産の賃貸借契約においては、
その契約が更新され続ける限り、借地法および借家法が適用され続けることになる。
このような措置がとられた理由は、
借地借家法が借主にとって不利益を及ぼすのではないかという懸念が主に法制定当時の野党から示されたためである。
構成
借地借家法は民法に規定された賃貸借契約の原則を現代社会の実状に合わせて修正している。
まず借地人および借家人が土地建物の新所有者に対して比較的容易に自己の権利を対抗できる様にした。
また、借地・借家の契約についてその期間をできるだけ長く設定し、かつ契約更新を強制して契約が容易には終了できないようにした。
そして借地に関しては、借地権の譲渡や転貸をする際に本来必要な地主の承諾を得なくても代わりに裁判所の許可を得ればよいとされた。
さらにこれら借地借家法の規定は、借家人に不利な特約をしてその内容を変更してはならないという片面的強行規定という方法がとられている
(逆に、借家人に有利な特約は許される)。
以上は土地建物の賃借人にとって有利な規定であるが、そうでないものも本法には含まれる。
それが定期賃借権である。
適用範囲
借地借家法は全ての不動産賃貸借に適用されるわけではない。
同法の適用を受ける「建物」は全ての建築物を指すものではなく、また一時利用目的の不動産賃貸借には同法の適用がない。
まず借地借家法の適用を受ける「建物」(1条)は同法の趣旨、すなわち借地人の生活や営業を、
そして借家人の居住を保護するという法律の目的に従って制限される。
借地の場合、橋梁、電柱、ガソリンスタンドなどの建設が目的であれば同法の適用がない。
借家の場合、一軒家を借りている場合はもちろん、間借りであっても他の部分と区画されており、
構造や規模から独立的排他的支配が可能ならば同法における「建物」に該当し、その適用を受けることができる。
また、一時利用目的で賃貸される土地や建物については借地借家法の適用はない(25条、40条)。
ここでいう一時利用とは期間の長短ではなく、
賃貸借の目的や動機などの事情からその契約を短期間で終えることが客観的に判断できる場合を言う。
サーカスの興行のために土地を借りるであるとか、イベント開催中に出店を出すためだけに店舗を借りるという場合がこの一時利用にあたり、
借地借家法が適用されることはない。具体的には契約更新を強制したり解約を制限したりする同法の適用を受けることができない。
対抗力
借地借家法では登記など一定の条件(対抗要件)を備えた借地権や借家権は第三者にもその存在とそれに基づく権利を主張できる
(対抗できる)という規定をおいている。
これら本来は債権に過ぎない賃借権に物権と類似するような効力を与えた規定は建物保護法、
借地法、および借家法から引継いだものであり、
こうした一連の内容を指して借地権の物権化と言うことがしばしばある。
これを以下のような具体例で考える。
Aは地主である甲と土地の賃貸借契約を結び、その借地に家を建てて住んでいた。
ある日、甲がその土地を第三者である乙に売却した。
土地の新たな所有者となった乙はAに立ち退きを要求した。
Aは家主である甲と家屋の賃貸借契約を結び、その借家に住んでいた。
ある日、甲がその家屋を第三者である乙に売却した。
家屋の新たな所有者となった乙はAに立ち退きを要求した。
上記した二つの例ではAが賃貸借契約の借主であり、甲が貸主である。
そして土地や建物の賃貸借契約はあくまでその二人の間で締結されたものであるから、
新たにその土地や家屋を購入した者(新所有者)にとっては本来無関係なはずである。
よって借地人や借家人は新所有者に対してその土地・建物に対する借地権や借家権を主張できないというのが原則となる
(「売買は賃貸借を破る」という原則)。
もっとも、賃借権を登記していれば新所有者に対してもこれを主張することは従来からできた。
しかし通常の地主や家主は賃借権を登記することによって得られる強力な効果を嫌って登記に協力することはまずない。
しかも賃借人には登記請求権がないという裁判例があり学説も同調していたため、
賃借権の登記という方法によって賃借人が新所有者に自己の権利を主張するという方法は有名無実化していた。
ところがそれでは借地人や借家人は家を追い出されて生活基盤を失うことになる。
このような状況を避けるために制定されたのが土地建物保護法に始まる各種の法律であり、それらを統合した借地借家法である。
ここでは以下のような対応策がとられている。
まず借地借家法10条1項において、
借地人はその土地上に登記済みの建物を所有していれば
新所有者に対しても借地権があることを主張することができ、そこに住み続けることができる。
借家人の場合には31条1項に規定がある。
すなわち、借家人がその借りている家に居住(占有)していれば
新所有者にも借家権があることを主張することができ、そこに住み続けることができる。
契約の期間
借地権の場合、契約期間は一律に30年以上と定められている(3条)。
契約存続期間を明示しなかった場合には30年間であるとみなされる。
借地法では借地上に建てられている建築物について石造り、土造り、
レンガ造りなどの堅固建物と、木造などそれ以外の材質の建物を非堅固建物という区別を設け、
前者の所有を目的とする借地権の契約期間が30年未満の場合には一律60年とし、
後者の契約期間が20年未満の場合には一律30年として規定していた。
しかしこの区別は建築技術発展に伴って合理性を失い、借地借家法には受け継がれなかった。
借家の場合、契約の存続期間はまずは当事者の合意によって定まる。
民法604条(賃貸借契約の期間を20年以下と規定している)の適用が排除されているため期間の上限はない。
逆に契約期間が1年未満である場合には期間の定めがない建物の賃貸借とみなされる。
期間の定めのない賃貸借はいつでも解約を申し入れることができるが(民法617条)、
借地借家法においては建物を明け渡すまでの猶予期間が2倍の6ヶ月に延長され、しかも解約するには正当事由が必要である(28条、後述)。
契約更新の強制
借地借家法は賃借人を保護するため、借地・借家契約については直接的または間接的に契約更新を強制している。
当事者(特に賃貸人)の意思に関わらず法律の規定によって契約が更新されることを法定更新という。
また解約についても正当事由を要求するなどして一方的に契約を終了させないようにしている。
民法における原則では、契約期間が定められていない賃貸借契約は借主・貸主どちらからでも解約を申し入れることができ、
その申し入れから所定の期間を過ぎると契約は終了する(民法617条1項)。
契約期間が定められている場合ならば、その期間が過ぎれば契約は終了する。
そして、ここでさらに契約を更新するかどうかは当事者次第である。
しかしこれでは賃借人が突然家や土地を追い出されて生活の拠点を失うおそれがあるため、
借地借家法には更新を容易にし、解約を制限する制度が整備されている。
借地権の更新まず借地の法定更新から述べる。
借地権の存続期間は一律30年以上である。
合意によって更新をした場合でもその期間は10年以上でなければならず、
契約が始まってから最初の更新であれば20年以上でなくてはならない(4条)。
契約期間が満了した場合、借地人が契約更新を請求する事ができる。
このときに地主(賃貸人)が更新に異議を唱えなければすぐさま契約は更新される(5条1項)。
また、たとえ意義を申し述べたとしても正当事由がなければ契約は更新される(6条)。
これに対し、借地人が契約更新を請求しなかったり、地主の契約更新拒絶が正当事由のあるものであったりした場合には借地権が消滅する。
しかし、借地人は直ちに土地を出て行かなければならないわけではない。
この場合でも借地人(あるいは転借地人)が土地利用を継続しているならば契約が更新される余地がある(5条2項、3項)。
借地人が土地を継続使用していることについて地主が異議を唱えることができるが、
この異議について正当事由がない場合には契約が更新される(5条2項、6条)。
借地人による土地の使用継続がなかったり、
使用継続に対する地主の異議に正当事由がある場合には契約は更新されず、土地の賃貸借関係は終了する。
なお、契約が更新されない場合には借地上の建物を買い取るよう、地主に請求することができる(後述)。
建物の買取による出費は地主に対して契約を更新するよう心理的強制を与えることになるといわれているが、疑問もある。
借家権の更新
契約の存続期間があらかじめ定められている借家契約の場合、何もしなければ自動的に契約が更新されるという制度が採られている。
すなわち、契約期間が終了する1年から6ヶ月前までに契約を更新しないことを通知しなければならず、
この通知がない場合にはこれまでと同様の条件で契約が更新されたとみなされる(26条1項)。
ただし、新たな借家契約は期間の定めのないものとされる(26条1項但書)。
たとえ更新拒絶の通知を行ったとしても、その拒絶によって契約を終了させるためには正当事由が必要となる(28条)。
正当事由がある更新拒絶の通知を行っても、借家人がその建物に住み続けている場合には契約が更新される余地がある。
つまり、期間終了後も建物の使用を続けている借家人
(26条3項により転借人も含む)に対して異議を述べなければ契約は更新される(26条2項)。
この異議をするにあたっては、借地権のときのような正当事由は必要ではない。
契約の存続期間について合意がない借家契約の場合には、前述の通り、
いつでもどちらからでも解約を申し入れることができるという民法上の原則に立ち戻る(民法617条)。
しかしその解約は正当事由のあるものでなくてはならない(28条)。
更新拒絶・解約の制限
借地借家法は、不動産の賃貸借契約について解約や契約更新の拒絶をする場合には「正当事由」を要求している。
これは、存続期間に定めがない賃貸借契約はいつでも当事者のどちらからでも解約を申し入れることができ、
定めのある場合にはその期間満了によって契約は終了し更新するかどうかは当事者の意思次第、という民法上の原則を修正したものである。
そうした修正を施した理由はこの法律の趣旨でもある「賃借人の保護」である。
契約の更新を拒絶するには正当事由が必要である。その内容は、借地については6条が、借家については28条が規定している。
賃借人がその土地や建物を継続して使用する必要性があるかどうかが主に考慮されるが、それが全てではない。
特筆すべきは立退料を考慮するようになった点である(以前の借地法や借家法では明示されていなかった)。
また借家においては「建物の現況」が考慮の材料として挙げられている。
賃料額改定の特則
賃料額の改定に際しては賃貸人と賃借人の地位の違いとそれによる交渉力の差が大きく現れる局面である。
よって借地借家法は地代や家賃が経済事情の変化によって現状に見合わない額となった場合
(高すぎるという場合も低すぎるという場合もある)には、当事者の双方が借賃増減額請求権を取得する。
借地では11条、借家では32条に規定がある。
これを行使するとその場で直ちに額が変更される。
つまり借賃増減額請求権は形成権である。
もちろん具体的な額は裁判などによって決定されることになるが、請求権を行使した時点から賃料が変更されたものとして扱われる。
こうすることで紛争解決を引き延ばし、引き延ばしている期間の賃料を現状の額で据え置こうとする戦術は無意味化する。
例えば20万円の家賃が諸般の事情を考慮した場合に異常な高値であったとする。
そこで借家人が1月に「賃料を10万円にせよ」という内容の借賃増減額請求権を行使した。
家主はその額について難色を示したため裁判となり、結果7月に「賃料を15万円にせよ」という判決が出たとする。
すると賃料は1月の時点から15万円であったとして扱われ、賃借人は1月以降の賃料を15万円で支払うことになる
(7月から賃料が15万円になるわけではない)。
なおこうした賃料額の決定を巡る裁判を起こすには、まず調停を行わなければならない。
これを調停前置主義といい、民事調停法24条の2および24条の3に規定されている。
建物買取請求権
借地契約が終了した場合、借地契約であれば借地上の借地人が立てた建物が残存する場合がある。
この場合、その建物を賃貸人に買い取るよう請求できるのが建物買取請求権である(13条)。
建物買取請求権は形成権である。
つまり、これを行使すれば賃貸人の意思に関わらず建物の売買契約が成立してしまう。
この規定の趣旨は借地人が投下した資本について回収する機会を与え、建物を取り壊すことによる国民経済的損失を防止し、
請求権が行使されれば買取を当然に認めることで契約の更新を間接的に強制することにあると説明される。
しかしこの制度は現代社会の実状に適合しないという批判もある。
つまり、借地人の保護は契約存続によって図るべきであって買取による資本投下まで保護する必要はないとか、
戦後復興を成し遂げた日本において建物の取り壊しを規制するほどの住宅難は存在しないとか、
建物それ自体の価格は安いため契約更新を強制する効果がないという指摘である。
賃貸借契約が賃借人の債務不履行によって解除された場合には、賃借人は買取請求権を行使できないとするのが判決例の立場である。
ただし学説には異論も多く、買取を認めるのが多数説である。
また、第三者の建物買取請求権というものもある。
これは賃借権の譲渡を地主が承認しない場合に、
その借地上の建物などを取得して借地権を譲り受けようとする者はその地主に対して建物等の
買取を請求できるというものである(14条)。
造作買取請求権
借家契約においてもその契約終了時に賃貸人に対して「造作」を買い取れと請求できる。
これを造作買取請求権といい、33条に規定がある。
建物買取請求権同様、行使されたとたんに借家人と賃貸人との間に売買契約が成立するという形成権の一種である。
買取の対象となる「造作」とは借家人が賃貸人の同意を得て借家に設置したもので、条文上明示されている
畳や建具(障子、襖、戸など仕切りとなるもの)のほか、ガス水道などの設備、空調設備(エアコン、クーラー)などが挙げられる。
この規定は借地借家法においては強行規定ではなく任意規定となっため(37条を参照)、当事者間で自由に特約を定めることができる。
造作は取り外しが可能であるから本来ならば契約終了時に借家人が収去しなければならない。
しかし社会全体の生活水準が向上するにつれて空調設備すらもその借家の一部分と見ることもでき、
必要費や有益費の規定(民法608条、詳しくは賃貸借の項目も参照)に従って処理すべきとの考えもある。
定期賃借権
定期賃借権とは、契約期間の更新がない賃借権である。
これにより様々な経済的要請に応えることができる、柔軟な賃貸借契約が可能となった。
定期借地権には三種類ある。
第一は、22条に規定された一般定期借地権である。
この借地権の存続期間は50年以上でなければならないが、存続期間終了時には借地を更地に戻して返還しなければならない。
存続期間満了後、更新もなく速やかに土地が返還されるため、比較的安価で借地権を設定できるのがメリットである。
第二に、23条に規定された建物譲渡特約付借地権がある。
この存続期間は30年以上と規定され、期間満了時には借地上にある建物が相当の対価でもって地主に売却される。
土地開発業者(ディベロッパー)などが土地を借り、
そこにビルやマンションを建てて賃料収入を得て、その後地主に売却するという事業に用いられる。
第三に、24条が規定する事業用借地権がある。
借地権の存続期間は10年以上20年以下で、前二者の賃借権と異なり土地の利用目的が事業用に限定される。
つまり店舗を建設するといった目的に限定されるのであり、居住目的の建物は建設できない。
この事業用借地契約は公正証書によってなされなければ、一般の借地契約となる。
同様に、定期の借家権もある。
それが38条に規定された定期建物賃貸借である。
ここでは存続期間が終了すればそこで賃借権は完全に消滅し、契約を更新することはできない。
ただしこの契約は公正証書などの書面によって行う必要があり、
その際には期間満了時に契約を更新することができないことを記載した書面を渡して説明しなければならない。
これは海外転勤などである一定期間だけ家を空けるが、その後再び戻ってきてその家で生活することが確実であるような場合に用いられる。
また、法令や契約によって一定期間が経過した後に取り壊される予定となっている建物を賃貸する場合にも、
建物取り壊しと同時に賃貸借契約が終了し、更新することができないという契約形態を採ることができる(39条)。 |
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